車ごと75メートル崖から転落した女性! 壮絶8日間


昨年7月、ある女性の失踪事件が全米で大きく報道された。
年間およそ8万4千人と言われる、アメリカの失踪者数。
その中でも、この事件はとりわけ大きな注目を集めた。
事件後、一切 メディアの取材を拒否していた当事者たち。
しかし、半年間に及ぶ交渉の末、アメリカ本国を含め、世界で初めてその真相を取材することに成功!
彼らが語る極限の8日間とは!?

2018年7月、アンジェラ・エルナンデス(当時23歳)は、長期休暇を利用して7ヶ月ぶりに家族の住む街へ車で向かっていた。
ミュージシャンになるという夢を持っていた彼女だが…それに人生をかける勇気を持てず、高校卒業を機に、仕事をしながら一人暮らしをしていた。
アンジェラが今回の帰省で一番楽しみにしていたのは、1ヶ月後に控えた、姉イザベルの結婚式、4人兄弟の中で 特に仲が良かった姉の晴れ舞台だった。
心配性だった姉イザベルは、こまめにアンジェラと連絡を取っていた。
アンジェラは予定のルートの地図を送信し、仮眠を取ると、翌朝8時前に姉に出発することを告げた。

出発から4時間、実家まで およそ400キロのあたりにあるビッグサー海岸を走っていた時であった。
目の前を横切った動物を避けようと急ハンドルを切ったため、コントロールを失いそのまま崖の下へ転落してしまった!
我々は、彼女が転落した実際の現場へと足を運んだ。
そこに広がっていたのは、想像を絶する衝撃の光景だった!
高さ75mの断崖! アンジェラは、高層ビルの25階に相当する高さの崖から転落していたのだ!

目もくらむような高さから落下したアンジェラは…奇跡的に一命を取り留めた。
転がりながら落ちたことで、衝撃が和らいだのだ。
だが、なんと落下したのは海の上!
浸水が始まり、車はどんどん沈んでいく。
さらに…水圧で車の扉が開かない!
アンジェラは、ダッシュボードから見つけ出した工具で窓を破ることに成功!
脱出することができたのだが…岸までたどり着くと、再び意識を失ってしまった!

一方、妹の帰りを待つ イザベルは、出発のメール以降、アンジェラから連絡がないことを心配していた。
すると…ふとイザベルの脳裏に、アンジェラがどこかで命の危険にさらされている光景がよぎった。
心配でいてもたってもいられなくなったイザベルは、翌朝7時、婚約者とともに捜索に向かった。
連絡を受けた警察も捜索を開始。
この時点で、警察の見立ては、誘拐・遭難・自殺・家出・事故。
初動の段階で、あらゆる可能性を視野に入れ、捜索に臨んでいた。

一方、車から脱出し、気を失っていたアンジェラは、再び意識を取り戻した。
だが、落下の衝撃で肋骨4本と両鎖骨を骨折。
さらに肩を脱臼し、左腕は使えない状態になっていた。
両足は、幸い打ち身程度だったので、痛みを堪えて、なんとか立ち上がることができた。

だが…肺が破れ、気胸を発症していた!
気胸とは、空気が漏れることで、肺が潰れた状態になること。
呼吸がしにくくなり、そのまま放っておくと、漏れた空気が胸部に溜まり心臓を圧迫、命の危険もあった。
すぐに病院での治療が必要な重症だが…肺が破れていることなど知る由もない彼女は、痛みを堪えながら、助けを求め海岸を歩いた。

すると、無残な姿で打ち上げられた愛車を発見。
落ちたのは浅瀬だったため、完全に海には沈まず、奇跡的に打ち上げられていたのだ。
長旅であったため、車には着替えや食料など、多くの荷物を積んでいたのだが窓はことごとく大破しており、携帯電話を含め、荷物は全て海に流されていた。

アンジェラが転落した付近の地形は、ほとんどが断崖絶壁。
歩いてのぼれるような道はなかった。
普通なら誰もが絶望するはずの状況…しかし、過去にボランティア活動をしていた彼女は、ハリケーンのような自然災害の被災地で救助活動を行なっていた。
悲惨な状況を生き抜こうとする被災者から、希望を持つことの大切さを学んでいた。
きっとイザベルが自分を探している…希望を胸に、辺りの探索を始めた。

そして、付近で一番高い岩場に登ると、車が見えた!
とはいえ、切り立った崖の下はほぼ死角。
気づいてもらうのは不可能に近かった。
その後、何隻かの船が沖を通ったが、彼女に気づくことはなかった。

一方、早朝から捜索を続けていた姉のイザベル。
彼女は、妹から伝えられたルートを北上、途中で聞き込みをしながら、アンジェラが仮眠をとったスーパーの駐車場までやってきた。
午前8時前に届いたメールから4時間後の12時には、直接留守番電話に繋がっていた。
だがその頃を境に、コール音すらしなくなってしまったのだ。
出発から4時間後にアンジェラの身に何かが起こったのではないかと推察した。
そのため、イザベルは、アンジェラが予定していたルートに沿って、スーパーの駐車場から4時間走行した辺りを、重点的に捜索した。
    
その夜、警察から信じられない報告が入った。
アンジェラの携帯電話が、昨日の午前9時頃、イザベルからの着信を受けた場所が判明したというのだ。
警察から聞いた場所に、彼女は耳を疑った。
前日に、アンジェラがイザベルに送ったメールには、実家に最短で到着する内陸の5号線を使うと書かれていた。
だが警察によると、海岸沿いを通る1号線上のダベンポートという街の基地局で、アンジェラの携帯電話に着信が入ったのが記録されていたというのだ。

実はアンジェラは、天候がよかったため、思いつきで景色のいい海岸沿いの1号線を選んでいた。
もちろん、ルートの変更を伝えようとしたのだが、たまたま電波状態が悪いエリアだったため…イザベルに連絡できなかったのだ。
そして、そのおよそ2時間後、アンジェラは転落することになる。
つまり、イザベルはアンジェラが走った道とは、まったく違う道を捜していたのだ。

転落から3日目。
救助を信じて待つという希望とは裏腹に、アンジェラの体にケガ以外の異変が起き始めていた。
季節は真夏、海岸沿いは日差しも強く、日陰になるような場所もない。
加えてこの3日間、食べ物はおろか 水さえ飲んでいなかったアンジェラは、目眩、頭痛、吐き気に襲われた。
脱水症状を起こしていたのだ。

近くに海水のたまり場はあったのだが、彼女は決して飲まなかった。
海水の塩分濃度は、体内の塩分濃度よりも高く、飲めば飲むほど体内の塩分濃度は高まっていく。
すると人間の体は、それを下げるため、余分な塩分を水とともに排出し、逆に水分を失っていくのだ。
彼女は、それを救助活動の中で学んでいた。

飲み水を求め、アンジェラは転落地点から1キロほど歩いた。
すると、幸運にもコケから滴る水滴を発見。
左腕は使えず…片手にため 口を濡らす程度だったものの、これにより危機的状況を脱することができた。
その場にとどまれば、最低限の水は得られた。
だが、アンジェラは車が打ち上げられた場所に戻ることにした。

なぜなら…もし誰かが捜索に来た場合、先に発見されるとすれば、自分よりも目立つ車。
車から離れすぎてしまうと、見つけてもらえないかもしれないと考えたのだ。
さらに、車が作る小さな影だけが、唯一、日差しを避けられる場所でもあったのだ。
だが、彼女を苦しめるのは、水分不足や強い日差しだけではない。
ビッグサー海岸は満潮になると、海水が岸壁まで押し寄せるため、高い岩に登らなければならない。
潮の満ち引きに合わせて、場所を移動しながら過ごす必要があった。

一方、イザベルは、結婚式の準備を一時延期し、アンジェラを見つけるまでは家に帰らないと決断していた。
この日、母親や姪たちが捜索に参加、二手に分かれ、捜索範囲を広げることになった。
GPSの信号が途切れた1号線沿いの町に、捜索願いのポスターを貼り、手がかりを探った。
さらに、FacebookなどのSNSを使って、行方不明になったアンジェラの目撃情報を募った。
しかし、日没まで必死に探しても、有力な手がかりを掴むことはできなかった。
その日の終わり、警察に状況を確認したのだが…3日も経っているにも関わらず、警察からは携帯に着信があったことを確認した以外、有力な情報は何一つあがってこなかった。

警察は、誘拐、遭難、自殺、事故などを想定し、付近の捜索を続けていた。
だが…不安に苛まれた状態の家族に全ての情報を伝えると、それを元に夜中でも捜索に繰り出したり、人が入れないような場所にまで入ったりする可能性がある。
そこで遭難や事故などの二次災害に遭う可能性も十分考えられた。
そのため、確実な情報を得るまでは、細かな捜索状況を報告することは、禁じられていた。
この時点で警察は、ダベンポートから広がる道、全てを捜索の対象にしていた。
そのため、海岸沿いを特に重点的に捜索することはなく…この日も大きな進展はなかった。

転落から4日目の明け方、アンジェラに幻覚の症状が現れた。
それは、アンジェラの脱水症状が、さらに深刻になっていることを意味していた。
この頃には、何箇所かコケが群生する場所を見つけていたのだが…右手に溜められる程度の水では、体の乾きを完全に潤すことはできなかったのだ。
アンジェラは生きるための道具を探し求めた。
そして、車の部品に使われるホースを発見。
これに水をたくさん溜め、飲むことを思いついた。
この機転により、まとまった水分を補給できたアンジェラは、脱水症状の危機を免れた。

そしてこの日、姉イザベルの捜索活動に大きな動きが!
SNSで募った目撃情報、この投稿が友人たちによって拡散されたため、アンジェラの失踪に地元メディアが注目。
謎の失踪事件として、ニュース番組で取り上げられたのだ。
この報道をきっかけに、アンジェラの失踪は全米に知れ渡ることとなった。
警察も捜査員を増員。
ヘリを使い、ダベンポートから 半径 約200キロの範囲を上空からも捜索した。

そして ついに、警察はある情報を掴む。
1号線上にあるガソリンスタンド、その監視カメラの映像から、失踪した日の午前10時頃に、ここをアンジェラが通り過ぎていることが判明!
さらに、ガソリンスタンドをさらに南下した先は、アンジェラの失踪前から、土砂崩れで道が封鎖されているという。
これらの情報により、アンジェラが失踪したと思われる区間は、大幅に限定された。
懸命な捜索が徐々に身を結び、イザベルたちは確実にアンジェラに近づいていた!

翌日、通行止めの手前にある険しい山道、通称・デスロードと呼ばれる事故多発地点を重点的に捜索していた。
一方、イザベルたちは、警察の動向を察知し、ガゾリンスタンドから、通行止めになっている場所まで、南北100キロに及ぶ海岸線を捜索してみることに。
もしかしたら、崖の下に転落している可能性もあると考え、ドローンを使って崖の下を確認してみることにした。
しかし…アンジェラを見つけることはできなかった。

その時、イザベルの脳裏に連絡が取れなくなった当初に浮かんだ不吉な光景が蘇った。
そこでイザベルは、急勾配の山道を捜索してみることにした。
このとき彼女が向かったのは、警察が捜索を行っているデスロードと呼ばれる道。
その時、アンジェラがいた場所のまさに目前まで来ていたのだが、最悪なことにその地点を通り過ぎてしまった。
結局 6日目も、アンジェラは見つからなかった。
そして…とうとう失踪から一週間が経とうとしていた。
警察はヘリを使い、上空から捜索するだけでなく、捜索船を出し、海からも探していたが…天候が悪化し、捜索は打ち切られてしまった。

失踪から8日後。
この日も成果はなく、ホテルへと戻ったイザベル。
携帯電話を見ると、数件の不在着信があり、留守番電話も入っていた。
それはアンジェラに関する重大な連絡だった!
 
少し遡り、その日の夕方頃。
ビッグサー海岸近くの公園でキャンプをしていた、チャド夫婦が、崖の上から釣りのポイントを探していた。
普通なら人が降りられるような場所ではないのだが、アウトドアに慣れた夫婦は、ロープを使って崖を降りた。
すると…打ち上げられた車を発見!
なんと、彼らが降り立ったのは、アンジェラが転落した、その場所だったのだ。
そして、アンジェラを発見!
アンジェラは、生きていた!

転落から5日目以降、同じ行動を繰り返すことこそ生存率を上げると考えたアンジェラ。
思い切った行動はとらず、水を汲み、車の近くで待つというルーティーンを守っていた。
そして、チャド夫婦に発見されたのだ!
そして、数時間 救助を待つ中、親しくなった3人は、記念撮影を行なった。

その後、到着した救助隊が、アンジェラを近くの病院へと緊急搬送。
すぐにイザベルにも連絡が入った。
そしてアンジェラが救出されたことによって、初めて彼女が転落した場所が特定された。
そこは、縁石があるものの、高さは30センチもない。
ハンドルを切り損ねれば、簡単に乗り越えられてしまうような場所。
落ちた痕跡もほとんど残っておらず、特定するのは困難だったのだ。
さらに、落下したポイントは、少し内陸に入り組んでいて、上からは 特に見にくい場所だった。

アンジェラは搬送後、病院で精密検査を受けたのだが、医師によると、これほど重症の人間が8日間も生存できる確率は、ほぼゼロだという。
現代医学の常識を覆し、偶然通りかかった夫婦によって救出されたアンジェラ。
そこに至るまでにも、奇跡的な偶然が重なっていた。
車が転がるように落ちたため、衝撃が和らいだこと。
さらに、アンジェラは日頃から、健康のために食事を制限していた。
そのため、比較的 空腹に耐えやすい体になっていたこと。

そして、救助され緊急搬送された、わずか1ヶ月後…姉イザベルさんの結婚式に、アンジェラさんの姿が!
当時はまだ治療中だったが、今は完治し、後遺症もない。
そして…我々は、75メートルの崖から転落し、奇跡の生還を果たしたアンジェラさんに会うことができた。
心の傷は癒えておらず、事故について語ることはまだできないという。
しかし、持ち前の明るさを取り戻しつつ、今も元気に暮らしている。

75メートルの崖から転落し、奇跡的に生還したアンジェラさん。
ミュージシャンになるという夢を持っていたが…それに人生をかける勇気を持てずにいた彼女。
事故により、生死の境を彷徨った経験から、自分の人生に対して心境の変化があったという。
さらに、事故後の心境をインターネット上に書き綴った。
「自分の気持ちに正直に生きることにしました。自分の人生 恐れずにやりたいことを追求したいです。」
ミュージシャンになるという、小さい頃からの夢を、諦めず追いかけることにしたのだ。

そして今回、アンジェラさんに思わぬサプライズがあった。
浜辺の海岸沿いで、記念撮影をしていると…アンジェラさんを救出した、チャドさん夫婦が駆けつけてくれたのだ!
半年ぶりの再会を噛みしめる3人。
チャドさん夫婦は、今回の救助を讃えられ、通常は救急隊員に贈られる「救急隊賞」を受賞した。

そんな2人から最後にアンジェラさんへプレゼントが…
それは、事故当時、アンジェラさんが車に積んでいたポスター。
大好きな90年代のロックコンサートのもので、姉イザベルさんからもらって大切にしていた。
彼女が病院に搬送された後、もしかしたら大切なものかもしれないと、取っておいてくれたのだ。
生きる希望を捨てずに、奇跡の生還を果たしたアンジェラさん。
彼女は今、新たな希望を持って夢を追いかけている。


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