FUJI TELEVISION Announcer's Magazine アナマガ

吾輩は褐色である

続続・そだねー五輪

2018/03/20 19:00
posted by 榎並大二郎


実況
「さぁ盛り上がりを見せています、そだねー五輪!
三田友梨佳・三上真奈の両選手がここまで満点です!」
(三田選手の演技はコチラ) 
(三上選手の演技はコチラ)

曽田根
「あれ以来、三上選手の笑顔に影を感じてしまいます。」

実況
「あくまでフィクションですが…『”今日も私は三上アナです”そだねー』は
解説の曽田根さんも思わず唸る問題作でした!
ではここで改めて競技ルールをご説明します。
選手に許されているのは、『そ』「だ」『ね』の三文字を発することだけ。
会話の前後関係を伝えられないという制限の中、
言い方や間のとり方で、どんな状況で繰り出された『そだねー』なのかを
審判員に想像させ、100点満点で競うものです!」

曽田根 
「演技後、”果たして我々はこの演技を見てしまってよかったのか”と、
言いようのない背徳感に襲われますね。」

実況
「かのニーチェは言いました。
『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ―』
果たして我々は今回、何を目撃してしまうのでしょうか!?
続いての挑戦者はこの方!」



実況  
「堤礼実選手です!」

曽田根
「人が右上を見るのは、何かを創造している時だといいます。
これまたとんでもない”そだねー”が繰り出される予感がしますね。」

実況  
「視聴者の皆さんも、どんな状況での『そだねー』なのか
想像しながらお楽しみ下さい!それでは堤選手の演技です!」













堤「そ…だね。」








実況  
「出たーーー!クールそだねー!
意味深長な眼差しが胸を突きます!
曽田根さん、いかがでしょう!?」
    

曽田根 
「これは…散りゆく桜のような儚さを感じる演技ですね。


私は、花見が大嫌いだ。

あれはもう何年も前の話。
台場の潮風が頬をツンと刺す頃に、あの人は言った。

『暖かくなったら、桜を見に行こうか』
 
嬉しかった。 
いつも自分勝手で気分屋なあの人。
なんとなく出会って、なんとなく付き合い始めた。
計画を立ててどこかに行ったことなんてない。
甘酸っぱいとか、胸キュンとか、そんなものとは真逆の関係。
そんなあの人から初めてかけられた、優しい言葉。
 
そして桜のつぼみが膨み始めた頃、あの人は私の前から姿を消した。

『暖かくなったら、桜を見に行こうか』
優しくて、残酷な言葉を私に残して。

あれから何年が経っただろう。
昨日、あの人からメールが届いた。

『暖かく…なってきたね。お待たせ。』
 
返信は、していない。

…そんな私の気持ちなんて露知らず、アナウンス室では
同僚達が花見の話で盛り上がっている。 

お願い、やめて。
今は花見の話をしないで。
私はもう花見なんて行かないんだから。
行かない…つもりなんだから。

『ねえねえ!礼実は誰かとお花見行くの?』
  
『え…?』

―そんな状況で発した『”礼実の恋はいつだって遅咲き”そだねー』ですね。」


実況
「それでは今の解説を踏まえて『”礼実の恋はいつだって遅咲き”そだねー』を
リプレイでご覧いただきましょう!」  








堤「そ…だね。」







実況  
「咲いた!恋の開花宣言だ!
”あの人”と花見に行くか逡巡していた礼実を、
同僚の何気ない問いかけが後押しした形となりました!
いやー、劇的なそだねーでした!
改めてですがこの話はフィクションです!
そして得点が出ました!あっとここも100点!」

曽田根 
「”あの人”は寒桜のような人ですね。
寒桜の花言葉は…『きまぐれ』です。」

実況 
「憎い!憎らしいけれど嫌いになれない”あの人!”
さぁ、そだねー五輪も最高潮!満開の時を迎えています!!」